ずっとそばにあったもの。|はじまり

洗顔をもっと深く知るための、新しい入り口。

あのときの私には、その先に何が待っているのか、まだ分かっていませんでした。

生せっけんは、なぜ生まれたのか。

あのきめ細かな泡は、どのようにつくられているのか。

そして、その泡で、どのように洗えばよいのか。

一つのことを知ろうとすると、その先に、また新しい疑問が見つかりました。

知って、試して、もう一度考える。

誰かに伝えようとするたびに、自分にはまだ知らないことがあると気づく。

振り返れば、私はこの頃から "洗顔" について考え続けるようになっていたのだと思います。

洗顔研究家という、今の私につながる歩みは、大きな決意から始まったものではありませんでした。

ずっとそばにあった一つの石鹸を、きちんと知りたい。

その小さな気持ちから始まったものでした。

お客様に一番近い場所から

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目の前にあった、生せっけん。

その背景をもっと深く知るために、私は、それをつくり上げたルアンルアンで働くことを決めました。

そうして入社した私が、最初に配属されたのは、お客様サポートセンターでした。

お電話でご注文を受け、商品を梱包し、発送する。

ご注文をいただいてから、商品がお客様のもとへ届くまでに関わる部署です。

生せっけんについて知りたいと思って入った私の仕事は、商品開発からではなく、お客様に一番近い場所から始まりました。

そこで私は、商品開発に携わっていた社員の方から、生せっけんができるまでの話を聞きました。

毎日のように使い、よく知っていると思っていた生せっけん。

けれど、その始まりにあったのは、石鹸でもハーブでもなく、タイの山奥で出会った、一つの泥でした。

ひとつの泥から

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生せっけんの開発の始まりは、創業者がタイの山奥で目にした、泥の温泉でした。

お湯につかる温泉ではなく、顔や身体に泥を塗る温泉。

そこを訪れる人たちが、美容のために泥を取り入れている姿を見て、

「これは、おもしろい」

そう感じたことが、最初のきっかけだったそうです。

タイの自然の中にある素材を生かして、日本の女性に喜んでもらえるものをつくれないだろうか。

商品開発に携わっていた社員の方が、次に教えてくれたのは、そこから始まった長い素材探しの過程でした。

開発チームは、まず現地で出会った泥の成分を調べました。

ところが、分析を重ねても、その泥を洗顔料の素材として採用できるだけの確信には至らなかったといいます。

そのため、最初に出会った泥を、そのまま製品に使うことは見送られました。

それでも、泥という素材そのものをあきらめたわけではありません。

同じ泥でも、洗顔料の素材として納得して使えるものが、ほかにあるのではないか。

開発チームは、さまざまな土地から泥を取り寄せ、専門機関での分析を重ねていきました。

そうして手に取った泥は、百近くに及んだそうです。

そして最後に選ばれたのが、タイのロップリー県で採れる、ミネラルを豊富に含んだホワイトクレイでした。

もちろん、生せっけんに配合されている17種類のハーブも、突然見つけたものではありませんでした。

当時展開していたサロン事業では、タイの伝統医療をもとにしたハーバルボールなどの施術も取り入れていました。

その経験から、身体のために使われてきたハーブを、今度は肌のために選び、取り入れられないかと考えたそうです。

そこで、タイの伝統医学「サムンプライ」に精通する、ランシット大学のスラポート教授へ相談し、美肌のためのハーブレシピを依頼しました。

どのハーブを選ぶのか。

どの順番で、どれくらい入れるのか。

細かなところまで一つずつ組み立てられ、17種類のハーブを配合したレシピが生まれました。

ホワイトクレイも、17種類のハーブも、ただ自然のものだから選ばれたわけではありません。

何を使うのか。

なぜ、それを使うのか。

そして、それぞれをどのように組み合わせるのか。

その一つひとつを確かめながら、生せっけんは形づくられていました。

出来上がった一つの石鹸の向こうに、これほど多くの選択が重なっている。

私は入社して初めて、そのことを知りました。

使っているだけでは見えなかったもの。

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素材が決まっても、それだけで生せっけんが完成したわけではありませんでした。

開発の中で目指していたのは、洗ったあとにつっぱりにくく、使う人が洗い上がりに”納得”できるような石鹸。

そのために、配合にも細かな調整が重ねられていました。

生せっけんには、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸という、4種類の脂肪酸が使われています。

そもそも脂肪酸とは、アルカリと反応することで石鹸になる、いわば「石鹸のもと」です。

けれど、どれも同じ性質ではありません。

4種類を人に例えるなら、性格の違うメンバーが集まった、一つのチームのようなもの。

ラウリン酸とミリスチン酸は、水となじみやすく、泡立ちを支える身軽な二人。

パルミチン酸とステアリン酸は、少しどっしりとしていて、石鹸の形や使い心地を支える二人です。

それぞれに得意なことが違うからこそ、誰か一人を増やせばよいわけではありません。

4種類の持ち味を生かしながら、一つの石鹸としてまとめるには、それぞれをどれくらい配合するのか、そのバランスが大切になります。

さらに、生せっけんには、脂肪酸を石鹸へ変えるためのアルカリとして、水酸化Kと水酸化Naの両方が使われています。

水酸化Naからは、硬くなりやすい石鹸ができる。

水酸化Kからは、やわらかく、水になじみやすい石鹸ができる。

この二つもまた、目指す形に合わせて、配合のバランスを取る必要がありました。

性質の違う4種類の脂肪酸と、二つのアルカリ。

そこへ、美容液成分を56%配合する。

製造会社からは、

「これ以上入れたら、石鹸にならない」

と言われたほどだったそうです。

話を聞いたあと、あらためて成分表示を見ると、教えてもらった成分が、たしかに並んでいました。

それまで何気なく触れていた、生バターのようなやわらかさ。

あの独特の感触は、性質の異なるものを重ね、少しずつ調整したからこそ生まれたものでした。

そして、最初の生せっけんは、コロンとしたフォルムが特徴的な陶器のポットに入って誕生しました。

職人さんが一つずつ手作業で焼き上げた、素焼きのポット。

蓋とスパチュラにはチーク材が使われ、このポットタイプはグッドデザイン賞も受賞しました。

その後、新しい容器を考える際には、生せっけんのやわらかな質感にふさわしい、これまでにない容器で、手に取るときの特別感も届けたいという思いがあったそうです。

けれど、洗顔は毎日繰り返すものです。

見た目の特別さだけではなく、毎日の使いやすさも欠かせません。

お風呂場に置いたままでも、衛生的に使えること。

旅行先やジムなど、自宅以外でも、いつもの洗顔を続けられること。

日々使いやすく、持ち運びやすい形にしたい。

そんな思いから、新しい容器の開発が始まりました。

ただ、生せっけんは、一般的なチューブから押し出すには硬く、固形石鹸にできるほど硬くはありません。

いくつもの想いと難しさが重なる中で、

「リップスティックのように持ち運べたら」

という声が、スタッフから上がりました。

そこから生まれたのが、繰り出して使うスティック容器でした。

私は、生せっけんを使い始めた頃から、その泡の心地よさを気に入っていました。

けれど、なぜあの泡ができるのか。

なぜ、あのやわらかさなのか。

その理由まで考えたことはありませんでした。

使ったときの感覚から生まれていた信頼に、少しずつ理由が加わっていく。

知れば知るほど、ずっと身近にあった生せっけんが、以前とは違うものに見えてきました。

同時に、つくられた背景を知るだけでは、その良さを十分に理解したことにはならないとも感じ始めていました。

この石鹸から生まれる泡を、自分でも、もっと深く確かめてみたい。

次に私の目が向いたのは、生せっけんそのものではなく、その泡でした。

泡をつくるということ。

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理想の泡を求めて、私は 何度も泡を立てました。

生せっけんは、どれくらいの量が必要なのか。

水は、どのくらい加えればよいのか。

泡立てネットのどこに石鹸をつけ、どのように持って 動かせばよいのか。

一つの条件を変えては、出来上がった泡を確かめる。

そんなことを、繰り返しました。

水が少なければ、泡は増えにくい。

反対に多すぎれば、泡はゆるくなってしまう。

ネットの持ち方や手の動かし方が少し違うだけでも、泡の量や細かさ、弾力は変わりました。

同じ石鹸を使っていても、いつも同じ泡ができるわけではありません。

生せっけんをつくった人たちが、どれほど配合や製法にこだわっていても、実際に肌に触れる泡は、最後に使う人の手でつくられる。

私は、そのことに気づきました。

それまで、泡立ては洗う”前”の準備だと思っていました。

けれど、出来上がる泡によって、手が肌に触れる感覚まで変わります。

泡立ては、ただ石鹸を泡に変える作業ではない。

その日の洗顔をどのようなものにするかを決める「大切な時間」だと思うようになりました。

何を使って洗うかだけではなく、どのような泡をつくるのか。

生せっけんを知るために始めたはずの試行錯誤は、少しずつ「洗顔」という行為そのものを考える時間へ変わっていきました。

けれど、納得のいく泡ができれば、それで終わりではありません。

次に私が気になったのは、その泡で、どのように肌を洗うかということでした。

泡の先に、洗い方があった。

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きめ細かく、弾力のある泡ができても、手で肌をこすってしまったら、その泡を十分に生かすことはできない。

そう考えた私は、今度は洗い方を何度も試すようになりました。

どうすれば、手で肌を直接こすらずに洗えるのか。

つくった泡を、どのように肌へ触れさせればよいのか。

試す中で考えたのが、泡を肌の上でやさしくバウンドさせるように洗う方法でした。

手を横にすべらせるのではなく、たっぷりの泡をやさしく押して離す。

毛穴の中に泡を行き渡らせるようなイメージで、少しずつ場所を移していく。

私はこの方法を、「プレス洗顔」と呼ぶようになりました。

生せっけんの泡を、できるだけ心地よく生かすために、自分で試しながら考えた洗い方です。

そして、洗顔は、洗って終わりではありません。

泡が肌に残らないよう、丁寧にすすぐところまでが洗顔です。

私は、すすぎ残しを防ぐために、三十回を一つの目安として、丁寧にすすぐことも伝えるようになりました。

泡をつくる。

その泡で、肌をこすらずに洗う。

そして、泡が残らないようにすすぐ。

それまでの私にとって、洗顔は一つの動作でした。

けれど、細かく見ていくと、その中には、いくつもの小さな選択がありました。

どのような泡をつくるのか。

肌にどう触れるのか。

どこまで丁寧にすすぐのか。

洗顔料を選ぶだけでは、洗顔は決まらない。

ただ落とすのではなく、どのように落とすのか。

そのために、何をすればよいのか。

私の関心は、一つの石鹸から、毎日の洗顔のあり方へと広がっていきました。

自分なりの方法が見えてくるほど、今度は、その理由をきちんと知りたいと思うようになりました。

なぜ、洗顔は肌にとって大切なのか。

なぜ、スキンケアのはじまりだと言えるのか。

感覚だけではなく、根拠を持って伝えるためには、私自身がもっと深く学ばなければならない。

洗い方を考え続けた先に、それまでよりも大きな問いが生まれていました。

問い続ける人へ。

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自分の感覚だけではなく、きちんとした理由とともに洗顔を伝えたい。

そう思った私は、本を読み、肌の構造や洗顔料について学び始めました。

商品開発に携わる中で、専門家の方に話を聞く機会があれば、自分の中にある疑問を一つずつ尋ねました。

洗顔料は、どのように汚れを落とすのか。

洗うとき、肌の上では何が起きているのか。

泡には、どのような役割があるのか。

知りたいことは、次々に増えていきました。

もちろん、その始まりに、生せっけんを多くの方に試してほしいという思いがあったことも事実です。

けれど、その良さをきちんと届けたいなら、商品の特徴を説明するだけでは足りません。

なぜ洗顔が大切なのか。

どのように洗えば、毎日のケアの中で、その泡を生かすことができるのか。

そこまで自分が理解して、初めて伝えられることがあると思ったのです。

調べると、また新しい疑問が見つかる。

実際に試すと、言葉で知っていたこととは違う発見がある。

そして、誰かに伝えようとすると、自分がまだ理解できていなかった部分に気づく。

その繰り返しでした。

私は最初から、洗顔の専門家になろうと思っていたわけではありません。

「洗顔研究家」という肩書を先に決めて、学び始めたわけでもありませんでした。

自分の肌に悩んだ経験から始まった問いは、お客様の肌と向き合う中で広がり、生せっけんの背景を知ることで、泡や洗い方へとつながっていきました。

何を使うのか。

どのような泡をつくるのか。

どう洗い、どうすすぐのか。

一つずつ確かめていくうちに、私が見つめていたものは、特定の商品だけではなく、洗顔という毎日の習慣そのものになっていました。

「素肌美の近道は、洗顔。」

この考えは、誰かから一つの答えとして教えてもらったものではありません。

自分の肌と向き合い、お客様の声を聞き、泡をつくり、洗い方を試す。

その一つひとつを重ねた先に、少しずつ見えてきたものでした。

振り返れば、私がしてきたことは、ずっと洗顔を研究することだったのだと思います。

だから私は、「洗顔研究家」になりました。

けれど、研究家になったからといって、すべての答えが見つかったわけではありません。

肌も、暮らしも、その日によって変わります。

だからこそ、一つの正しさを押しつけるのではなく、その人が自分の肌と向き合うための方法を、これからも考え続けたいと思っています。

ずっとそばにあった生せっけんを、きちんと知りたい。

あのとき生まれた小さな気持ちは、やがて、洗顔そのものを知りたいという問いに変わりました。

それが、洗顔研究家として歩き始める、私の本当の入り口になったのです。

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