素材が決まっても、それだけで生せっけんが完成したわけではありませんでした。
開発の中で目指していたのは、洗ったあとにつっぱりにくく、使う人が洗い上がりに”納得”できるような石鹸。
そのために、配合にも細かな調整が重ねられていました。
生せっけんには、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸という、4種類の脂肪酸が使われています。
そもそも脂肪酸とは、アルカリと反応することで石鹸になる、いわば「石鹸のもと」です。
けれど、どれも同じ性質ではありません。
4種類を人に例えるなら、性格の違うメンバーが集まった、一つのチームのようなもの。
ラウリン酸とミリスチン酸は、水となじみやすく、泡立ちを支える身軽な二人。
パルミチン酸とステアリン酸は、少しどっしりとしていて、石鹸の形や使い心地を支える二人です。
それぞれに得意なことが違うからこそ、誰か一人を増やせばよいわけではありません。
4種類の持ち味を生かしながら、一つの石鹸としてまとめるには、それぞれをどれくらい配合するのか、そのバランスが大切になります。
さらに、生せっけんには、脂肪酸を石鹸へ変えるためのアルカリとして、水酸化Kと水酸化Naの両方が使われています。
水酸化Naからは、硬くなりやすい石鹸ができる。
水酸化Kからは、やわらかく、水になじみやすい石鹸ができる。
この二つもまた、目指す形に合わせて、配合のバランスを取る必要がありました。
性質の違う4種類の脂肪酸と、二つのアルカリ。
そこへ、美容液成分を56%配合する。
製造会社からは、
「これ以上入れたら、石鹸にならない」
と言われたほどだったそうです。
話を聞いたあと、あらためて成分表示を見ると、教えてもらった成分が、たしかに並んでいました。
それまで何気なく触れていた、生バターのようなやわらかさ。
あの独特の感触は、性質の異なるものを重ね、少しずつ調整したからこそ生まれたものでした。
そして、最初の生せっけんは、コロンとしたフォルムが特徴的な陶器のポットに入って誕生しました。
職人さんが一つずつ手作業で焼き上げた、素焼きのポット。
蓋とスパチュラにはチーク材が使われ、このポットタイプはグッドデザイン賞も受賞しました。
その後、新しい容器を考える際には、生せっけんのやわらかな質感にふさわしい、これまでにない容器で、手に取るときの特別感も届けたいという思いがあったそうです。
けれど、洗顔は毎日繰り返すものです。
見た目の特別さだけではなく、毎日の使いやすさも欠かせません。
お風呂場に置いたままでも、衛生的に使えること。
旅行先やジムなど、自宅以外でも、いつもの洗顔を続けられること。
日々使いやすく、持ち運びやすい形にしたい。
そんな思いから、新しい容器の開発が始まりました。
ただ、生せっけんは、一般的なチューブから押し出すには硬く、固形石鹸にできるほど硬くはありません。
いくつもの想いと難しさが重なる中で、
「リップスティックのように持ち運べたら」
という声が、スタッフから上がりました。
そこから生まれたのが、繰り出して使うスティック容器でした。
私は、生せっけんを使い始めた頃から、その泡の心地よさを気に入っていました。
けれど、なぜあの泡ができるのか。
なぜ、あのやわらかさなのか。
その理由まで考えたことはありませんでした。
使ったときの感覚から生まれていた信頼に、少しずつ理由が加わっていく。
知れば知るほど、ずっと身近にあった生せっけんが、以前とは違うものに見えてきました。
同時に、つくられた背景を知るだけでは、その良さを十分に理解したことにはならないとも感じ始めていました。
この石鹸から生まれる泡を、自分でも、もっと深く確かめてみたい。
次に私の目が向いたのは、生せっけんそのものではなく、その泡でした。