たくさんの肌と向き合って、見えてきたこと。|はじまり #04

美容の世界に行けば、答えが見つかる。

そう思い飛び込んだ先で、私は美容部員として、たくさんのお客様の肌と向き合うようになりました。

肌のことを学び、さまざまな商品に触れ、お客様のお悩みを聞く日々。

そこで知ったことは、たくさんあります。

化粧品のこと。成分のこと。
一つひとつの商品に込められた、つくり手のこだわり。

けれど、美容について知れば知るほど、私の中には、別の疑問が生まれていきました。

美容部員時代に出会ったお客様の多くは、肌のことを何も考えていなかったわけではありません。

むしろ、使うものを慎重に選び、できることを丁寧に続けている方たちでした。

それでも、思うように整わず、悩んでいる。

その姿は、かつての私とよく似ていました。

答えを見つけるために飛び込んだ美容の世界で、私は、それまで当たり前だと思っていた美容に、少しずつ違和感を抱くようになりました。

知らないことばかりだった、美容の世界。

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私が働き始めたのは、
百貨店の中にある、ナチュラルコスメを集めたフロアでした。

以前から知っていた、憧れのブランド。
名前を聞いたことはなくても、話を聞くと、商品づくりへのこだわりに驚かされるブランド。
同じフロアには、数百ものブランドの商品が並んでいました。

ひとつの場所に、これほどたくさんの化粧品と、それぞれに異なる考え方が集まっている。

きれいに並んだ商品を眺めているだけでも、それまで知らなかった美容の世界が、目の前に広がっていくようで、とてもワクワクしたことを覚えています。

でも、実際に売り場へ立つと、眺めているだけでは見えなかったものが、次々と現れました。

商品の名前や使い方を覚えるだけでは、お客様にきちんとお伝えすることはできません。

何が入っているのか。
なぜ、その成分が使われているのか。
どのような考えで、その商品がつくられたのか。

ひとつ知るたびに、その先にまた新しい疑問が出てきました。

なかでも、最初に立ち止まったのが、担当していたブランドが大切にしていた「無添加」という言葉でした。

「無添加って、何だろう」

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当時の私は「無添加」と聞くだけで、とてもこだわりのあるものだと感じていました。

肌にとって、いわゆる “悪いもの” が入っていない。
だから、きっと肌にもやさしい。

なんとなく、そんなイメージを持っていたのです。

けれど、いざ自分がお客様へ説明する立場になると、それだけでは何も伝えられませんでした。

何が無添加なのか。
使っていないものの代わりに、何を使っているのか。
なぜ、その成分が選ばれているのか。

“無添加”というひとつの言葉の奥に、私の知らなかったことが、いくつもありました。

それまでの私は、化粧品を選ぶときに、雑誌で紹介されているものや、評判になっている成分に目を向けることが多かったように思います。

何が入っているのかは気にしても、なぜそれが入っているのか。なぜ、それを使わずに、別の成分を選んでいるのか。

そこまで深く考えたことはありませんでした。

美容部員になった今は、自分が納得するだけでは終われません。

お客様から質問をいただいたとき、自分の言葉でお伝えしなければならない。

分かっているつもりだった言葉について尋ねられ、うまく答えられない。

そんなたびに、自分の知識がどれほど曖昧だったのかを思い知らされました。

答えを見つけたくて、美容の世界へ入ったはずでした。

けれど、その頃の私の前にあったのは、答えよりも、たくさんの「なぜ」でした。

だから私は、知らなかったことを、ひとつずつ学ぶところから始めました。

知るほど、簡単には選べなくなった。

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お客様から尋ねられるのは、私が担当していたブランドの商品だけではありませんでした。

別のブランドの商品について聞かれることもあれば、

「このフロアの中で、私にはどれが合いますか」

と相談していただくこともありました。

目の前には、数百ものブランドの商品が並んでいます。

その中から、お客様が探しているものを一緒に見つけるためには、自分のブランドのことだけを知っていても、十分ではありませんでした。

仕事をしながら時間を見つけては、ほかのブランドの売り場を訪ねました。

商品の特徴だけでなく、なぜその成分を選んだのか。何を大切にしてつくっているのか。

それぞれのブランドの方に教えていただき、分からないことがあれば、また聞きに行きました。

新しい商品が並べば、学ぶことも増えていく。

ものすごい量の情報に圧倒されることもありましたが、それ以上に、知らなかったことを知っていく時間が楽しかったのを覚えています。

ひとつのブランドだけを見ていたら、知ることのできなかった成分。

似ているように見える商品にも、それぞれ違う理由や、つくり手の想いがあること。

美容には、ひとつの答えだけではなく、さまざまな考え方があること。

知れば知るほど、「何がいいのか」を簡単には言えなくなっていきました。

知名度があるから。
評判の成分が入っているから。
誰かがいいと言っていたから。

それだけで、目の前のお客様にも合うとは限りません。

では、この方は、何に悩んでいるのだろう。

どんな肌になりたいと思っているのだろう。

商品について学んでいたはずが、いつしか私は、その先にいるお客様のことを、もっと知りたいと思うようになっていました。

お客様が見ていたのは、今の肌だけではなかった。

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売り場では、年齢も、暮らしも、抱えているお悩みも異なる、たくさんのお客様と出会いました。

一人ひとりのお話を聞きながら、その方に合いそうなものを一緒に考える。

そんな日々を重ねるうちに、何度も似た言葉を耳にすることに気づきました。

「前のような透明感が出なくなって」
「年齢だから、仕方がないんですけどね」

そう話すお客様の多くは、美容に無頓着だったわけではありません。

むしろ、ご自身の肌と丁寧に向き合い、使うものを慎重に選び、さまざまなケアを続けてきた方たちでした。

それでも、鏡に映る今の肌を見ると、どこか納得できない。

お客様が今の肌について話すとき、そこには、以前のご自身の肌がありました。

前は、もう少し透明感があった。

以前は、こんなことを気にしなかった。

理想の肌と、昔の自分の肌と、鏡に映る今の肌。

お客様は、その間にある違いを感じながら、ご自身の肌について話しているように見えました。

その気持ちは、私にもよく分かるものでした。

肌が荒れていた頃の私は、鏡に映る肌だけを見ていたわけではありません。

以前の自分や、自分が思い描いていた姿と、今の自分を比べていました。

頑張っているのに、どうしてうまくいかないのだろう。

できることは試しているのに、なぜ理想の自分に近づけないのだろう。

そう感じていたのは、私だけではなかったのです。

美容を学ぶために入った場所で、私は、かつての自分と同じように迷っている人たちに出会いました。

その中に、今でも忘れられないお客様がいます。

「自分の肌を、ちゃんと見られるようになった」

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そのお客様は、お使いになるものを、とても慎重に選ぶ方でした。

私が担当していたのは、誰もが名前を知っているようなブランドではありません。

足を止めて話を聞いてくださったものの、最初は、どこか半信半疑だったのだと思います。

「これは、どこの商品なの?」
「どのようにつくられているの?」
「何を使っているの?」

その方が知りたかったのは、何に役立つ商品なのか、ということだけではありませんでした。

ご自身の肌に使うものだからこそ、
どのような考えでつくられ、なぜその成分が選ばれているのかまで、ひとつずつ確かめようとしていました。

お話を聞くうちに、その慎重さには理由があることが分かりました。

その方は、ご自身の肌をとても敏感だと感じていて、
やっと気に入ったものが見つかっても、使い続けるうちに肌が不安定になり、また別のものを探さなければならないことがあったそうです。

その方にとって化粧品を変えることは、ただ新しいものを試すことではなく、肌に合うものを一から探し直すことだったのだと思います。

私は、商品のことをひとつずつお話ししながら、実際にお肌で試していただきました。

すると、話を聞いていたときとは少し違う、うれしそうな表情を見せてくださいました。

「これは、よさそうかも」

そう言って、使い始めてくださったのです。

一か月、二か月、三か月‥。

その後も売り場へ足を運んでくださり、使い続けるなかで感じたことを、ご自身の言葉で聞かせてくださいました。

そして、半年ほど経った頃。

「前より、肌に透明感が出てきたように感じるし、
 なにより、肌が不安定にならずに、これを使い続けられているの」

その方の言葉は、肌の話から、少しずつご自身の話へと変わっていきました。

「前は、気になるところに何かを重ねて、隠すようにしていたの。
 でも今は、それをしなくても、自分の肌をちゃんと見られるようになった気がする」

その言葉を聞いたとき、私はとてもうれしかったのを覚えています。

透明感が出てきたことも、同じものを使い続けられたことも、もちろんうれしい。

けれど、それ以上に心に残ったのは、その方が、ご自身の肌について少しやわらかな表情で話してくださったことでした。

答えられることが増えたのに。

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美容部員として働き始めた頃に比べれば、お客様にお伝えできることは増えていました。

商品のこと。成分のこと。
それぞれの違いや、どのような方にお伝えしたいものなのか。

お悩みを伺いながら、その方に合いそうなものを一緒に考えられるようにもなりました。

選んだものを喜んで使ってくださる方。
何度も売り場へ足を運び、感じたことを聞かせてくださる方。

そんなお客様との時間は、美容部員として働く私にとって、何よりもうれしいものでした。

けれど、多くの方のお話を聞くうちに、商品についての知識だけでは答えられないことも見えてきました。

「今の肌には、何を使えばいいですか」

そう尋ねられれば、商品の中から、その方に合いそうなものをご提案することはできます。

でも、これまで丁寧にケアを続けてきた方が、なぜ今も悩んでいるのか。

その理由までは、分かりませんでした。

むしろ、肌のことを大切に考え、さまざまなものを試してきた方ほど、深く悩んでいるように見えることがありました。

美容液も、クリームも、肌に必要なものです。

実際に、それらを使うことで、うれしそうな表情を見せてくださるお客様にも出会いました。

だから、「与える」ケアが間違っていると思ったわけではありません。

ただ、新しいものをご提案し続けるだけでは たどり着けない何かがある。

たくさんのお客様の肌と向き合うなかで、私は、そう感じ始めていました。

美容は、与えることだけなのだろうか。

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私はずっと、肌をきれいにするためには、何かを「与える」ことが必要なのだと思っていました。

より自分に合う美容液。
より満足できるクリーム。
今まで知らなかった成分。

そうしたものを見つけられれば、いつか理想の肌に近づけると信じていました。

けれど、多くのお客様の肌と向き合うなかで、ひとつの疑問が残るようになりました。

美容とは、本当に 何かを足していくことだけなのだろうか。

まだ、その答えを言葉にすることはできませんでした。

ただ、それまで当たり前だと思っていた美容を、少し違う方向から見てみたい。

そんな気持ちが、私の中に芽生え始めていました。

そして、その疑問を抱くようになった頃。

以前は深く考えることのなかった、ある景色の意味が、少しずつ変わり始めていました。


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